東洋医学とは・自然治癒力とは・鍼灸とは
〇東洋医学とは
2000年。あるいは、3000年前ともいわれるほど古くからつづく伝統医学です。経験に基づく学問と技芸が、脈々と受け継がれてきました。
その骨子となる哲学には、『人は自然の落とし子』であり、自然(宇宙)の法則に拠り順うことで健康の維持増進をはかろうとするところにあります。
具体的には、自然には律動(リズム)があり、一日をつくり、一月をつくり、一年をつくります。 一日には昼夜があり、一月には月の満ち欠けがあり、一年には四季があります。
このような自然のリズムには、動物植物問わず、全ての生き物に『生長収蔵』という命の始まりと終わりというリズムをつくります。人においては、仏教にいう『生老病死』といってみた方がわかり良いかもしれません。
特に、四季(春夏秋冬)は最も大きな自然のリズムであり、土からとれる旬の食材や、春夏秋冬の気圧・温度・湿度の変化は、季節ごとにみせる色彩が異なります。
旬の食材の滋味をいただき、気候に適う服装を心がけることで、平穏な日常を過ごすことができます。
しかし、時に季節に合わない生活態度によって、あるいは、人間関係や社会・環境変化からのストレスを伴い、心身が疲弊してしまうことがあります。
東洋医学では、心身の疲弊は、からだの奥底にある五臓六腑の隅々まで流れて留まることのない気血のめぐりの乱れや歪みを生じるといいます。
気血の歪みが一過性に、あるいは長期的に偏りが生じることで、あらゆる病気を発症すると考えます。気血の歪みとはつまり、治る力が発揮できない状態と言い換えることができるかと思います。
東洋医学の治療とは、気血のめぐりの歪みや偏りを調えることによって、人間の本来持っている『治る力』すなわち『自然治癒力』が正常に働くことができるようにすることを目的とした治療といえます。
当院では、気血のめぐりを最も調えやすい鍼と灸の治療をおこないます。
また、気血の歪みや偏りを調えるための援けとして、日常生活の食事や服装・運動のアドバイスをし、短期の治療計画を立てていきます。
治る経過を観察しながら、治療の終了時期や、体調管理のための月一回の治療、予防のための継続的な治療など、患者さんと相談しながら中~長期の治療計画を立てます。
気血の変動の大きい自律神経・ホルモン異常による更年期症状や自律神経失調症状がある場合。
また、気血の量そのものが低下してしまっている手術後や体力の衰弱が甚だしい場合には、必要に応じて連携している漢方医師をご紹介し、漢方薬の処方をご提案させて頂く場合もあります。
〇自然治癒力とは
自然治癒力は、人間に本来備わっている能力の一つです。
山が木を伐採されても、畑を開墾しても、元の姿へと緑生していくように。
海や川にどれだけの不浄なものが流されても、いずれは浄化して生き物が住むように。
雨や風、微生物や時間を含めた、自然界がみせる生命のバランスの取り方です。
我々人間も同じです。
日々の生活によって歪んでしまう気血のめぐりも、人が持つ全ての機能を現し発揮することで、 人間本来のバランスに戻ろうとします。
この中心に戻ろうとする力を自然治癒力といい、治る力といいます。 本来のバランスに、変化できる力と言い換えてもいいかもしれません。
病気と闘うための、抵抗力とか、抗病力。 東洋医学では「邪気」と戦い正常なバランスに戻る力として「正気」と呼ばれます。
この中心に戻る力(自然治癒力)を、自転車でイメージしてみることが好みです。
例えば、健康な人を走っている自転車としてイメージしてみます。
走っている自転車(正常な気血のめぐりをしている人体)は、多少のアンバランスで(砂利道の上で)グラグラしても(少し症状がでても)、自然と治ってしまうものです。
止まっている自転車より、走行している自転車の方が安定していることは、自転車や一輪車、オートバイに乗ったことのある方は、ご経験があるかと思います。
また時には、大きくグラグラしながらも(症状を出しながらも)、なんとかバランスをとろうとする場合もあります。 たとえば、下痢や咳などは、症状を出しながらばい菌や毒素を排出し、正常に戻ろうとしています。
症状が出たから(グラグラしているから)、なんでも止めてしまって良いわけでなないです。 常に中心に戻ろうとする自然治癒力を信じて見守ることも、自転車が上達(自然治癒力を発揮)する上で大切なことです。
この中心に戻ろうとする自然治癒力について現代医学では、「ホメオスタシス(恒常性)」と表現します。
不摂生や過度のストレスなどの何らかの理由によって、正常に戻ろうとする反応である『自然治癒力や恒常性』が働けなくなると、本当の意味での病気(異常)となってしまいます。
この恒常性の維持能力を大きく超えた病態の時に、我々の鍼や灸、時には漢方薬の力を用いて手助けする必要があります。
昔から「手当て」という言葉があるように、おなかが痛い時などに患部に手を当ててじっとしているうちに、症状が治まってしまうことがあります。
また、かぜをひいた時、消化の良いものを食べ、暖かくして寝ていると、治ることがあります。 これらは人間が持つ自然治癒力のおかげといえるでしょう。
人間のからだには、このような優れた治癒力が備わっています。
〇鍼灸とは
人間の健康の要は、気血栄衛の循環にあります。
からだの中にあっては、気血を生み、気血をめぐらせ、眠りによって気血を浄化する五臓六腑。
からだの外の皮膚にあっては、触れることができるツボ。
からだの外と中をつないで、五臓六腑とツボが元気でいるように気血を届ける経絡。
鍼灸は、体表面にあるツボに適切な鍼灸刺激をすることで、経絡を通じ、からだの奥深い五臓六腑の働きを調整することができると考えます。
『表をもって裏を知る』という言葉もあります。
ツボは治療点であるとともに、からだの中の状態を反映している観察点でもあります。
ツボの反応を拠り所として、自身の感覚を頼りに『手で診る』ことを大切にしている治療だと思います。
〇鍼灸の治療目標
鍼灸には、大きく二つの治療目標があります。
医療目標
予防医学・早期治療を目的とした『病気にならないことが最高の医療』が、医学において理想像であるという力強いメッセージです。
東洋医学ではこれを、端的に『治未病(ちみびょう)』といい、『未だ病ならざるを治す』と訳されています。
『治未病』を完遂するには、衣食住・日常生活の見直しによる『養生の重要性』を説く側面と、治療家自ら病気の兆しを察しようとし、病気になる前に芽を摘もうとする『積極的な治療的予防』の側面があります。
鍼灸では後者のような、積極的な予防・早期治療を行えるところに特徴があります。
例えば、脈診によって表徴される気血の偏りは、昭和鍼灸によって創作された『本治法(ほんちほう)』によって是正することができます。 また、風邪の引きはじめには脈が浮くことから察し、症状を発する前に体調を調えることもできます。
それを可能としているのは、現代医学と東洋医学の治療方針の立て方の違いにあります。
例えば、病名が決まってからはじめて治療を行うことができるのが現代医学です。
それに比べて東洋医学では、体質や体調をととのえ続けることによって、病気になることを未然に防ぐことができると考えます。
この特徴は、不定愁訴やなんとなく調子が悪いといった薬や手術ができない病態において、快適な日常を目指すための優れたポイントかと思います。
また、症状の進行を止めたり、症状が軽く済むようにしたり、病後の快復を促したりすることも、広い意味では『治未病』の概念に含まれると考え、臨床の実際にあたっています。
臨床目標
一方で、どれだけ壮健な人であっても、大きな人生の流れの中にあっては、思うに行かない苦悩や苦労があるものと思います。
誰の眼からみてもハッキリしている症状もあれば、外部からは知ることのできない本人のみぞ知る苦難もあります。
一見、小さな症状にみえたとしても、背景には大病が隠れていたりすることもあります。
東洋医学的な診察方法のみならず、現代医学の各種検査結果や患者さんが知る病気の歴史を聴き、病気の原因と症状の優先順位を把握し、症状の改善を第一義とします。
次に、症状を引き起こしている病気の原因とプロセスを明確にし、好循環に向けて取り組み根本からの改善を促すことを第二義とします。
そして第三義は、どんな病気にも最後まで向き合い、患者さんと共に病気平癒に向けて歩むことです。
臨床家の心得と、言い換えることができるかもしれません。
ひとたび臨床の現場にでれば、患者さんが少しでも快癒するように考えます。
古典的なツボの運用にヒントを見出すこともあれば、現代医学の角度から分析することもあります。
創造力を働かせ、五感を頼りに観察し、患者さんからも観察され、観察眼と手腕によって、治療の勘所をおさえる。
そして、静かに冷静に、論理的な分析力で病気のメカニズムを紐解き、治癒に向かう糸口をたぐりよせる。
感覚的な伝統技術と科学的な論理的思考力を合わせた、創造性の高い治療だと思います。
臨機応変に。 明朗闊達に。
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